MENU

カドヤ質店からのお知らせ

ダイヤモンド価格の下落 第2回:合成ダイヤモンドの急拡大が市場にもたらした変化

2025.06.21

はじめに

前回のコラムでは、コロナ禍によってダイヤモンド市場が一時的に冷え込み、価格が大きく下落した背景を解説しました。
今回は、その後の相場をさらに押し下げた要因として注目されている「合成ダイヤモンド」の影響に焦点を当てます。
人工的に作られる合成石が天然石市場にどのような波紋を広げているのかを見ていきましょう。

一時的な回復とその背景

パンデミックの混乱がある程度落ち着いた2021年以降、各国で経済活動が再開されるとともに、ダイヤモンド市場は一時的に回復しました。
特にアメリカや中国では婚約指輪の需要が戻り、小売店の売上も持ち直したことが価格回復を支えました。

このタイミングでは、旅行のリベンジ需要やイベント再開による「ご褒美消費」も追い風となり、天然ダイヤモンドの販売量は一時的に増加しました。
2022年初頭には一部のグレードで価格がコロナ前の水準に近づくケースも見られました。

しかし、その回復は長くは続きませんでした。2023年以降、新たな構造変化が相場に影響を与え始めます。
その一つが、今回のテーマである「合成ダイヤモンドの急成長」です。

合成ダイヤモンドとは?天然ダイヤモンドとの違い

合成ダイヤモンド(Lab-Grown Diamond)は、天然と同じ炭素構造を持つ人工的に作られたダイヤモンドであり、見た目や物理的性質もほとんど変わりません。
高温高圧(HPHT)法や化学気相成長(CVD)法などの技術によって数週間〜数ヶ月で製造されるため、希少性という面では天然石と大きな違いがあります。

しかし、合成ダイヤモンドの価格は天然石の半分以下に設定されることもあり、消費者にとって魅力的な選択肢として急速に市場を拡大しています。

実際の価格推移データから見る下落傾向

以下は、日本国内の業者市場で実際に取引された0.30ct前後のダイヤモンド(Gカラー/VS1/Goodカット)の価格推移です。

年月 カラット カラー クラリティ カット 金額(実績)
2022年8月 0.304 G VS1 G 39,000円
2023年3月 0.301 G VS1 G 35,000円
2023年6月 0.310 G VS1 G 31,000円
2024年3月 0.303 G VS1 G 33,000円
2025年3月 0.308 G VS1 G 26,000円

合成ダイヤモンドによる相場下落のメカニズム

近年、合成ダイヤモンドの台頭によって天然ダイヤモンド市場に変化が起きています。
とくに婚約指輪などブライダル需要の現場では、「価格の安さ」を理由に合成を選ぶ人が増加しました。これにより、天然ダイヤモノドへの需要が相対的に減少し、業者間の取引価格も下押しされています。

アメリカでは2023年時点で婚約指輪の約50%が合成ダイヤモンドを使用しているというデータもあり、その影響の大きさがうかがえます。

また、小粒のダイヤモンドやメレダイヤのような量産品では価格競争が激化し、天然品の在庫が売れ残る事態も見られるようになりました。
こうした需給バランスの崩れが、天然ダイヤモンド全体の価格を下落させる要因となっています。

業界の対応と消費者の選択

このような変化に対応するため、業界ではさまざまな施策が取られています。

例えば、米国宝石学会(GIA)は天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドを厳格に分類して報告書を発行する体制を整えています。
また、高級ブランドの中には「天然石のみを扱う」方針を明確に打ち出すところもあり、従来の価値観を守る動きが強まっています。

一方で、合成ダイヤモンドのラインをあえて拡充するブランドも登場し、価格重視の新しい層の取り込みを図っています。
このように、今や天然と合成の市場は分断され、「価値観によって選ぶ時代」へと移行しつつあるのです。

相場の行方と次なる懸念

今後も合成ダイヤモンドの技術は進化し、生産コストはさらに低下していく見通しです。
その一方で、市場が過飽和になったり、価格のさらなる下落が続いたりする懸念も出てきています。

天然ダイヤモンドは今後、ジュエリー素材としてだけでなく、「希少な資産」としての価値をどう再定義できるかが問われる局面を迎えています。
ブランド価値の明確化や品質の裏付けといった工夫が、今後ますます重要になるでしょう。

そしてもう一つ、見逃せないのが国際的な関税の影響です。
一部の国ではダイヤモンド製品への関税強化が進み、これが市場価格や流通経路に新たな圧力をかけ始めています。

次回(第3回)では、この「関税政策がダイヤモンド相場に与える影響」について掘り下げていきます。

出典・参考